山奥の廃道沿いの謎の穴


これの続きです。
手元にGPSがあるので、先月偶然迷い込んだ廃道を再訪し、川向こうにぽかんと口をあけた謎の穴に挑むことにしました。
集落外れの休耕田わきに自家用車を停め、ツナギに着替え装備を整えていると、一台の軽トラックが進入禁止の看板を越え廃道に入っていきました。
近くには隣県ナンバーの軽自動車も停まっているし、山菜採りとか釣りでにぎわっているようです。「にぎわっている」といっても、流域一帯に4〜5人いるかどうかでしょうが。
準備を整え出発すると、車が侵入できるぎりぎりの地点に軽自動車が2台停まってました。一台は先ほど見かけた軽トラックで、釣り人と思われるおじさんが車から降りて装備を整えていたので「地元の人だったら穴に関する情報を得られるかも」と話し掛けてみました。
訊いてみると「地元といえば地元だけど」という微妙な答えが返ってきました。たぶん「村内別地域に住んでいる」という意味だと思います。
穴について訊ねると「あ、すぐそこのトンネルだろ? あれは10mぐらいしかないよ」とのこと。

どうも先月私が見かけた穴とは違う物件のような気がするんですが、おじさんはその先まで釣りに行くとのことなので、穴の前までご一緒させていただくことに。
この川沿いの道路はいつ頃まで現役だったのか?と訊ねてみると「んん、20年ぐらい前までは自動車通れたような」とのこと。ただし、その頃はすでに一般車両は通らず、釣りとか狩猟とか山菜採りの人などが侵入するだけだったそうです。
廃道になったのはそれより前、廃道歴は少なくとも20年以上なようです
路面がこれですもん。部分的にですが、岩剥き出しでがっちゃがちゃです。一部、道路が完全に崩れ落ち、モーターサイクルでも進めないような箇所もあります。
道中おじさんに「北隣の町に、昔"重い金属"を採掘していた穴がある」という話を教えてもらいました。一応、国土地理院のサイトから周辺の地図をダウンロードし持参していたのですが、さすがに北隣の町まではカバーしておらず、かといって地名を聞いても分からない覚えられないので、泣く泣くその穴は諦めました。

あれこれ訊ねながら歩いていると、川向こうに穴が見えてきました。
おじさん曰く「あれだよ。あれが昔のトンネルだよ」とのことですが、先月私がみた穴とは違います。川を挟んだこちらからでもはっきり見える大きな穴なのですが、もういい加減疲れきっていたので見落としていたのでしょう。
「これ以外にはトンネルないですか?」と訊ねると「この先にはないよ」とのこと。んんん、不安のあまり穴の幻覚でもみたんでしょうか・・・?

穴は川向こうにあるので、浅瀬を渡りました。このあたりはまだ水量が少ないので、長靴でも十分渡れます。
これは川沿いの廃道の反対側からみた画です。

往時は自動車も通ったそうなので、普通のトンネルサイズというか、それなりに大きいです。高さも幅も4mぐらいでしょうか?
高さと幅は良い感じですが、長さはおじさんが言うとおり10mぐらいしかありません。ちょっと短すぎです。





先月穴を見かけた地点はもっと下流だったはずだし、その周囲一帯に「トクサ」とかいうシダ類が群棲していたはずだけどこのトンネルの周囲には全然はえていないので、やはり違う物件でしょう。

往時の名残でしょうか、川沿いに石積みが残ってました。
ここに橋がかかっていたのか、路肩の補強だったのか。

「地元といえば地元」のおじさんは無いと言ってましたが、自分の記憶を信じて先に進むことにしました。
落雷でもくらったんでしょうか? 雑木林の真ん中の「一本だけ燃えた木」です。先月もみました。

これは何箇所かで見かけた「いかにも毒っぽいキノコ」です。

かなり不気味。

GPSで現在位置を確認しつつ歩を進めましたが、先月踏破したルート半分を超えてもそれらしいトクサ群生地に辿り着かず、「やっぱ記憶違いだったのかな? もうちょっと歩いてダメだったら引き返そうかな?」と弱気になっていると。
ありましたトクサが群生しています。流域、トクサが群生しているのはここだけなので、緯度経度が分からなくても地図が無くても、この群生を目指せば謎の穴に辿り着くことができます。

こんな草です。観賞用として販売もされていらしい。

この対岸に、矢印で指し示した部分ですが、穴らしき暗がりが見えるんです。
先ほどのトンネルあたりと比べると、このあたりはかなり水量が多く、長靴では川は渡れません。いや、浸水覚悟であればトレッキングシュ−ズでもサンダルでも何でもかまいませんが、ずぶ濡れの靴で数キロ歩いて車まで戻るのは嫌なので、ホーマックで買った980円のウェーダーを担いでいきました。
もしものときのために30mのザイルも担いでいきましたが、現場に着いてみると(浅いところは)水深せいぜい膝ぐらいで、ロープを使うまでの深さではありませんでした。
ウェーダー持ってロープ持って、昼食持って水筒持って、ヘッドライト付のヘルメット持ってハンドライト二本持ってですから、けっこう大変。登山と比べれば全然少ないんでしょうけど。
川岸でウェーダーに履き替え、いざ川の中に。自作のステンレス製ストックも持っていったので、川の中でこけもせず無事渡りきることができました。

川を渡って斜面を登ってみると、んん、確かに穴です。岩陰ではなくはっきりと穴です。
比較対象として地面に突き立てたストックが1150mmですから、高さは1800mm程度、幅は1500mmぐらいでしょうか。

穴のある小山。高さ30mぐらいの岩山の基部に開口しています。

これが洞口だ。向こう岸から見た時は自然の物とも人造物件とも区別できませんでしたが、間近に見て確信、床のフラット具合といい立って歩いてちょうど良い高さといい、これは人造の穴です。
中に板が転がってます。明らかに製材された板です。
洞口前は、整地されのかフラットな広場になってます。広場といってもせいぜい8畳程度の広さですけどね。周囲は自然手付かずの凹凸極まりない地形なのでかなり不自然、明らかに整地されていると思います。

洞口から自称500ルーメンのフィラメントライトを照射してみると、20mぐらいで行き止まりに見えました。
ちょっと入ってみると、キクガシラコウモリが5〜6匹天井にぶら下がってました。冬眠から覚めたばかりなのか、天井にぶら下がったまま忙しそうに毛繕い(なのかね?)のようなことをしていました。
「なんでキクガシラはどこにでもいるんだろう? たまにはウサギコウモリが見たいな」など思いつつ観察していると、数匹が奥に飛び去りました。ということはもっと奥があるということです。
恐る恐る侵入してみると、突き当りと思った部分で穴は右にカーブしており、奥に続いていました。

カーブ地点から10mぐらい進むと、今度は左にカーブします。
そこから5〜6m進むと、ご覧の通り行き止まりです。

洞内から洞口を写す。
穴があることは分かりましたが、こんな山の中に、いつ、誰が、なんのために掘ったのか?見当すらつきません。地図や航空写真を見ても、山向こうに集落があったような痕跡は無いのでトンネルではないだろうし、なにかの試掘でもした跡なんでしょうかね?
ということで、穴の存在は確認したものの、その存在意義が理解できず、ある意味謎を深めてしまいました。しかし「まぁ、考えてもわかるわけないし」と考察をあっさり放棄し、GPSにポイントを記憶させ穴をあとにしました。
良いんですよ、「そこに穴があり、そして侵入した」だけで。もうそれでじゅうぶん満足。